建築家の職能の確立とは何かと、時折考えさせられます。建築写真の目的は、そこにあると独立したころから考えておりましたし、今もそう信じております。建築をモチーフとする建築写真家が自らの職能を主張し、確立する様努力する事は、その写真の提供を受けた建築家にとって、自らの職能を確立する為の最大の武器になるとまで思い込んでいました。

 そんな青臭かった私も、この道30年を超え、建築と戦うというよりは、楽しむという境地に入りました。 門前の小僧も30年もやると、デザインやその空間に触れた時、デザイナーが感涙しながら図面に向かっていた瞬間に思いを馳せ、楽しむことができるようになるのです。建築家の言葉にならない声がレンズを通して聞こえてきます。

 鉛筆で書いた、きれいな図面を博物館で見て感激する現在、写真をゆっくり眺める時間など無いのかもしれません。もちろん、瞬時に多くの情報を伝える機能が写真の大きな特徴ではありますが、ほんの少しだけゆっくりと、眺めてみてください。常に建築と向かい合い、対話を続けている私どもの声が、聞こえるかもしれません。

                                                                                                 車田 保 (kurumata tamotsu)             

 

※住宅建築に関しては、特に力を入れて撮影を続けてまいりました。建築誌としては「ニューハウス」に多くの写真を寄稿させて頂いておりましたが、残念ながら休刊となってしまい、再度発刊される日を待ち望んでいる状態です。そこで今回、自らのホームページに「住宅建築」と銘打ってギャラリーを設けることにいたしました。今後、撮影させていただきました作品を抜粋の上、順次掲載の予定です。主な目的は、施主となるべき人々に見て頂きたいという趣旨ですが、皆様にも見て頂けましたら幸いに思います。尚、竣工写真は、住宅に限り一式15〜16万円程度(名古屋市内)で承っております。機会がございましたら、何卒、よろしくお願い申し上げます。